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山岳ガイド

奥山靖春さん

スキーパトロール暦20年以上。
山岳救助のプロに聞く入山の備えと心得

奥山靖春さん

全日本スキー連盟公認スキーパトロール
日本山岳ガイド協会/ステージⅡ 蔵王登山ガイド
自然公園管理員
蔵王山岳インストラクター
NPO法人蔵王高湯/観光振興会アドバイザー

遭難や事故、怪我など、冬山ではいつどんなトラブルに見舞われるかわかりません。冬山を安全に楽しむためには何が必要なのか。日本山岳ガイド協会所属の奥山靖春さんに、冬山で必要な装備と心得を伺いました。

更新:2023.09.01

― スター商事(以下同):雪山登山やスキーを楽しむ上で備えておくべき道具はありますか?

奥山(以下同)
まずは水とお湯です。山登りの際に保温保冷ボトルは必須。冬山はもちろん、夏山でも怪我した時は汗が冷えて寒くなることがあります。天候が急変したり、日の入り時刻に近づいたりすれば、当然気温は低下していきます。季節問わず、水とお湯は必須品ですね。

― 持参すべき水分量の目安はありますか?

あくまで目安ですが、
 
登山で必要な水分量(ml)= {体重(kg)+ザック(kg)}×5(ml)×行動時間(h)

が妥当なところです。
 
登山者の多くは、道中あまり水を飲みたがりません。途中で水が足りなくなると都合が悪いので、下山時まで取っておこうと思うようです。お客様へ「水分補給しましょう」とお伝えしても、飲まない方が多い印象です。
 
私は、水は先に飲もうと声を掛けています。熱中症や足の痙攣、攣り(ツリ)の原因のほとんどが、水分不足によるものだからです。水分が不足する前に飲んでもらう。水を大事に取っておいた結果、途中でバテてしまったら元も子もありませんから。

それに、一度バテてしまうとすぐに体力は回復しません。体調と水分は密接に関係しているのです。 

できれば、水分摂取は登山前から意識してください。当日だけ水分摂取を心がけても、身体には十分に浸透しません。最低でも登山当日の約2週間前から水分を摂取することが大切です。

― 正しい知識と日ごろの備えが不測の事態を未然に防ぐのですね。

その通りです。装備品は山へ入る前に試してみて、使い勝手を把握しておきましょう。緊急時に使う装備は尚のこと。緊急時にいつも通り動けるとは限りませんから。

私たちが現場で毎日のように使う救急用ブランケットは、登山でも必須装備のひとつです。被災時や遭難時を想定して作られた断熱性の高いシートで、身体に巻き付けるだけで体温の低下を抑えてくれます。
 
そんな頼もしいシートでも、遭難時に初めて触るようでは正しく活用できませんよね。非常時の迷いは不安を呼び、危険を増幅する可能性があります。だからこそ、事前に使ってみてほしいのです。

私が公私ともに愛用しているのは、SOLのエマージェンシーブランケットです。ポリエチレン製のシートは頑丈で、いまではケースだけがボロボロになってしまいました。自宅では寒くなる前に足元を包んだり、ちょっと横になるときに身体に巻いたりして使っています。

― 救助現場ではどのように活用しているのでしょうか?

主に保温ですね。冬山では負傷者の体温に気を使います。たとえば右足を骨折していると、骨折箇所周辺に血液が溜まってしまいます。適切な処置を行わずにいると、血液の循環が悪くなって体温が奪われて、ショック症状に陥る可能性があるのです。

雪深い蔵王では、凍死で亡くなる方も珍しくありません。患部のケアはもちろんですが、ブランケットをすばやく患者の身体に巻き付ける。冬山救助の鉄則のひとつです。

― 身体のどこを優先的に保温すればいいのでしょうか。

症状にもよりますが、表面積が多く臓器に近い上半身を優先したいですね

1枚で大人の全身を覆うことも可能
SOLのブランケット。1枚で大人の全身を覆うことも可能

スキーパトロールを20年以上続けているなかで、様々な救急用ブランケットを見てきました。先ほど申し上げたように、冬山で大切なのは保温です。

SOLのエマージェンシーブランケットを愛用している理由もここにあります。体熱反射率90%という数値は、身体を包む時間が長ければ長いほど実感できますから。

SOLを使った現場救助の様子
SOLのブランケットを使った現場救助の様子

― 全身を包むにあたって、展開しているブランケットのサイズ感はいかがでしょうか。

個人であればエマージェンシーブランケット1人用で十分だと思いますよ。救命救急の現場では、1枚で足りなければ複数枚繋いで使ったり、重ねて強度をもたせたりしています。

通常の救急用ブランケットはアルミ製なのでガサガサした音がうるさいのですが、SOLの製品はポリエチレン素材でしなやかだから、複数枚重ねても音が少ない。現場のことをわかってるなと感じますね。
 
あとは、負傷者を運搬する搬送用ボート(ストレッチャー)がないときにソリ代わりとしても使います。雪道を作るときなんかも、シートに入れて雪を排雪することもできます。

ブランケットを巻いた負傷者をストレッチャーで運ぶ
ブランケットを巻いた負傷者をストレッチャーで運ぶ

― カラーはオレンジを採用していますが、現場での視認性はどうですか?

蛍光色のようなハッキリとしたオレンジなので、緑が茂った夏でも、一面真っ白な冬でも見つけやすいですよ。あとは自然界にないカラーとして青色も目立つかもしれませんね。

― もし自分が遭難した際には、どのように使用すればよいのでしょうか。

どんな状況でも体温が低下しないように心がけてください。身体を包んで保温するのが通常の使い方です。余裕があれば雪面を30cmくらい掘ってその穴に入ると風よけになります。屋根を張るようにブランケットを被せれば、頭上から降る雪よけにもなります。

雪穴の上に被せれば屋根代わりに
雪穴の上に被せれば屋根代わりに

― 穴から外気が入らないようフタをするんですね。

そうです。実際のタープとして使うのもいいですよね。私がよくやる方法は、四つ角を紐状にしてペットボトルのフタに巻き付ける。それをペグに打ち込んで、トレッキングポールやストックで両端を立てる。そうすると簡単にタープが出来上がります。

私は分厚いタイプのブランケットでタープを作りますが、薄いブランケットでもテンションを掛け過ぎなければ風しのぎになります。

エマージェンシーブランケット1枚でタープになったり、雪穴のフタになったりする。発想の転換でいろんな使い方ができるんです。

オレンジ色のタープは救助者が発見しやすくなる効果も
オレンジ色のタープは救助者が発見しやすくなる効果も

― あらゆる場面で活用できる救急用ブランケットですが、所持している登山客は多い印象ですか?

少ないですね。まだ浸透していないと思います。防災グッズとして家にあるだけ、という人が多いのではないでしょうか。高機能で持ち出しやすく、使い勝手がよいのですから、認知が広がれば所有する人は増えるはずです。

困難な状況で真価を発揮する防災グッズは、アウトドアや生活の中でも活用できると、お客様に伝えていきたいですね。

― 登山で備えておくべきアイテムとして、救急用ブランケットの位置づけは?

救急用ブランケット、水/お湯、シューズ、ヘッドランプ――。すべての登山道具に位置づけはなく、すべて必要な道具です。シューズのソールが外れたら安全な移動はできませんし、蛇口のない山で水やお湯の希少性は言うまでもありません。

シューズや水に比べれば、救急用ブランケットの出番は少ないかもしれません。しかし、持っているか持っていないかで、生死を分ける可能性のあるアイテムであることは間違いありません。救急用ブランケットの価値は、もっと広く知られるべきだなと思いますね。

山における人命救助の鉄則:ルール・オブ・スリー

一般的に、被災から3日過ぎると生存率が急激に低下することから、人命救助の境として表現される「72時間の壁」。私たち山岳避難救助の世界にも、同じような指標があります。それが、ルール・オブ・スリー。

空気なしで3分間、保温なしで3時間、水なしで3日間、食糧で3週間。

ルール・オブ・スリーを重要な生存指標にして、私たちは日々山岳遭難救助に取り組んでいます。これから登山を始める方も、ルール・オブ・スリーに則ったアイテムを揃えて、安全で快適な登山を楽しんでいただきたいですね。

これまでの“大丈夫”、見直してみませんか

仮にあなたが山で遭難したとして、救助を待つ間にルール・オブ・スリーの数字が頭をよぎったとしたら、何を感じるでしょうか。

3日分の水を持ってくればよかった……。
3週間えられる食料品をザックへ詰めてくれば……。

これはなかなか現実的ではないでしょう。
では、保温なしで3時間はどうでしょうか?

エマージェンシーブランケットを1枚ザックに入れておけば……。

SOLのエマージェンシーブランケットは、たった1枚で「保温なしで3時間」を引き伸ばす可能性のあるアイテムです。これまでは「大丈夫」だったかもしれません。しかし、奥山さんが語る安全管理の心得を知った今、改めて、山を快適に楽しむために必要な装備を考えてみてはいかがですか。